[1990年代の台湾] 老婆になった若妻

台湾女性の付き合いは広く、気の合う男の友達がいても不思議ではない。台湾人は大らかな人が多いので、気軽に友達や知人に引き合わせられ、一緒に食事や遊びに誘われる。彼女は、男の友達たちと楽しく話し、大いに笑い合い、見ているこちらが嫉妬してしまうほど。しかし、それが普通なのであり、台湾らしさなのである。

自分のガールフレンドを呼び捨てにする男性現る

彼女の付き合いは広いもの

私が妻と知り合った頃、彼女の友人や知人と顔を合わせたり、時には食事を共にすることがあり、そこで彼女の素行を疑ってしまうような出来事が度重なったことがある。

自分の彼女は呼び捨てにされる

彼女の友人達と一緒にいると、彼らが私の恋人を呼ぶときに、親しげに名前を呼び捨てにする。女性を呼ぶときに「~さん」に相当する『~小姐』という言葉があるのにそれを使わない。

台湾では男女の別なく、相手の名前を呼び捨てにするのが習わしである。前述のようなさん付けにしてしまうと、よそよそしくなり、台湾人らしさが半減してしまう。

男女間の友情は芽生えるもの

相手が彼女と同じく女性ならどんなに親密であろうと構わないが、相手が男性だと余計に心に引っかかる。そんなときには、思わず相手の男性のことを問いただしたくなる。

しかも、台湾では恋人ではない異性の友達が多くいてもおかしくない。異性であっても純粋に気が合えば気軽に友達になれるのである。そう、男女の間に友情は立派に存在できるのである。

日本人的な思考は捨てるべきと自分に言い聞かせるが

普通の異性の友達が親しみを込めて、ガールフレンドの名前を呼び捨てにするだけである。

語学のテキストはそんなことは教えてくれない。

それを知ったのは後になってからだが、成人するまで日本で教育され、更には人を呼ぶときにはさん付けにしなさいと教育されてきたのだから、どう慣れようにも慣れようがないのも事実である。

今度は、私が子供にも呼び捨てにされる身に

その後、台湾での生活が長くなると、彼女だけでなく、私までも呼び捨てにされ、しかも小学生くらいの子供までもが呼び捨てにしてくる。

前述のように「さん」に相当する言い方があるのに使わず、しかも、呼び捨てにされる経験がほぼ皆無の身には刺激が強い。

しかし、そうはいっても、相手にさん付けで呼ばせるのはとても無理がある。しかも、男性に対する「~さん」は中国語では『~先生』。それは英語の「ミスター」なのだが、ひとたび漢字を思い浮かべてしまうとあまりに恐れ多くてとてもじゃないが言い出せるわけはない。

まったくもって、礼儀を重んじる日本の教育と日本語の知識は時として残酷な仕打ちをするものである。

呼び捨てにされた挙句、今度は妻が老婆に

彼女との結婚後も、夫となった私の目の前で妻を呼び捨てにされる悩みは依然として続く。

若さを失うには早すぎる

また、そればかりか今度はその初々しい新妻が突如として年老いてしまった。

台湾では、「妻」も「奥さん」も『ラオポー』と呼ばれる。

漢字に直せば『老婆』である。

『你好嗎?』が「お元気ですか」なら、『你老婆好嗎?』になる。字面から受ける印象は、まるで「あんたんとこの老婆は元気かい?」と聞こえる。

老婆呼ばわりも悪い意味はない

台湾人が妻を蔑んでいるかと言えば、もちろん、そんなことはなく、親しみを込めた表現であるらしい。

既に成人した自分はそうそう変われるものではない

呼び捨てにしても、老婆にしても、日本人が日本語的なフィルターを通してしまうのが、よくないらしいことはよくわかる。

問題は自分が妻をどう呼ぶか

さて、残るは自分が妻をどう呼んだらいいものか。

妻が本当に老婆のように見えたり、彼女を心底憎んでいたら、『老婆』という言葉は自然と口を衝いて出てくることだろう。

しかし、普通の夫婦であれば、口にするのにかなりのためらいがある。

老婆以外の用語がある

そこで、老婆に替わるとっておきの言葉を見つけた。

それは『太太』である。

ここで、なんだか「太い」の強調形のようでいやだなと思ったら、台湾では生きては行けぬだろう。もうこれくらいしかないのだから。

但し、私がいくら自分の妻を『太太』と呼んだところで、人から「あなたの老婆は…」と言われたら、救いようがない点は変わらない。

台湾女性と結婚して台湾に住むのは試練

台湾女性と結婚するのはとても大変である。 他の男性に妻を呼び捨てにされて嫉妬したり、老婆と毎日、顔を突き合わせて生きていかねばならぬのだから。