お酒を酌み交わす挨拶だけきちんと押さえておけば、自由に楽しく飲めるのが台湾の宴席である。もはや、上座だの乾杯の音頭だのと過度に気にする必要はない。食べるものを食べ、飲むものを飲む、それだけである。
お酒の種類と呑兵衛が多い
台湾で飲めるお酒の種類は多い。
紹興酒に高粱酒、変わり種では漢方薬酒もあり、ビールは日本のキリンやサッポロから、バドワイザーにハイネケンも揃う。洋酒はブランデー、ウイスキー、ワインにカクテル、それに日本酒すら売っている。おまけにチューハイまでもお目見えした。
接待や宴会で人が集えば、酒はつきものである。
酒に目がない呑兵衛は『酒鬼』と呼ばれ、その人数も多い。
自由な雰囲気でいつの間にか始まることが多い
宴会の開始時間はそれほど厳密ではなく、時間を守ると一番乗りになる確率も高くなることは、「台湾人は時間にルーズなわけではない。時差があるだけ」で既に述べたとおりである。
一番乗りに会場入りすると、どこが上座と下座であるか気にする向きもあるかと思うが、それを気にする台湾人は少ないので、気に入った席にひとまず着座すればいいし、目上の人が到着してこっちへ来いと呼ばれることがあったら移動すればよいだけである。宴会が始まった後の席の移動も自由である。
さて、ちょっとかしこまった席なら『乾杯』の号令があるが、そうでない場合はいつの間にか飲み始めていることも多いし、飲み始めて暫くして『乾杯』の掛け声がかかることもあったりで、宴会の始まりがはっきりしていないことも多い。
食事も当然のことながらいつの間にか食べ始めていることが多い。
好みのお酒を飲める
テーブルにビールなどが置かれていたら、先ずは周辺の人に遠慮なく注いであげる。
自分のグラスにも注いでもらうこともあるだろうけど、もし飲みたい酒があるなら、遠慮なく断って自分の飲みたいお酒を注いでもらうのもあり。
酒飲み同士、通じ合うところがあるのだろう。嫌な顔はされない。
酒飲み同士の挨拶
さて、お酒が自分のグラスにも満たされたところで、乾杯となるのだが、ここでは挨拶が必要になる。
グラスを目の近くの高さまで持ち上げ、相手の目を見て、グイッと煽るのである。そして、グラスを口から離したら、グラスを相手に掲げて、軽く会釈を交すのが礼儀である。
そして、飲みたいなと思ったら、グラスを持ち上げて、近くの人と目を合わせればよい。相手もすぐに応じてグラスを持ち上げ、一緒に飲むことになる。このように常に合図を送りながら飲むのが流儀である。
一人酒はないと思った方がいいかもしれない。
また、相手が大切な人なら、グラスの底に手を添えながら飲むとより丁寧さが伝わる。
乾杯は一気飲みの合図
乾杯はその字の如く、杯に注がれた酒はきれいに飲み干さねばならぬ。それも一気飲みだ。
日本人は飲む度に乾杯と言うので、それでは一気飲みが延々と続いてしまう。
しかし、台湾人は日本の習慣に詳しい人が多いので、「日本の乾杯で」と言ってくれる優しい人もいる。
それでも、お酒が好きな台湾人に囲まれてしまった場合、度重なる一気飲みの洗礼に辟易することもある。
相手が酔うまで飲んでもらうのが最高の歓迎の印であると思っている節があるので、致し方ない。
日本の乾杯は『随意』
もし、困ってしまう場合に福音となるとっておきの言葉がある。それは『随意』である。
この言葉を一度発すれば、忽ち憎き酒鬼どもの杯を煽る動作が鈍る。
随意の謂は「自分流に飲みましょう」。
これぞ日本の乾杯だ。
但し、この言葉は決して魔法の呪文ではないので、時に乾杯の声に押し切られて、何らその効を果たさずに終わることもある。
無礼講以上の無礼講
こんな場面に出くわしたことがある。
宴席の参加者の一人が箱からタバコを一本抜き取ると、こともあろうか、円卓を囲む一人一人に放ってよこした。
円卓は大きい。
円卓に置かれた料理を挟んで座っていると、手など届くはずもない。
そこで、放ったほうが話は早い。
さしずめそんなところなのだろうか。
投げられたタバコを受け取る周りの台湾人はさも当たり前のように自然に受け取っていた。
タバコとライターは公共物
タバコを吸う際には、お酒同様に周りの人にも勧める。
これは社交マナーである。
相手が受け取れば、ついでに火を点けてあげる。また、勧められることも多い。もちろん、吸わなければ、断わっても一向に構わない。
喫煙者は、自分のタバコとライターはテーブルに置いておく。すると、どこからともなく手が伸びてきて、持ち主に無断でタバコを一本取り出し、タバコの横のライターで火を点けるかも知れないが、厚かましいと思ってはいけない。それが普通なのだ。
しかし、考えようによっては便利この上無い。
タバコを切らしたときなどには同様に他人のを拝借できるのだから。分け合いの精神こそが台湾魂である。
但し、高価で紛失したくないライターは用が済み次第、ポケットにしまい込み、自己管理したほうがよい。
酒宴では逃亡罪は不適用
ス-プや果物などが出てくれば、食事が終局に近付いたことが分かる。この頃、逃亡を図る輩も出てくる。更なる本格的な酒宴が始まるからである。
食卓は紹興酒、ブランデー、ビール、日本酒等、様々な酒で賑わう。
人数が多ければ、酒の種類も多くなるが、そこへ名指しで、連続二、三杯の乾杯を要求してくる。
その上、乾杯の相手が入れ替わりでやってくると、一人一人と乾杯を繰り返すことになるから堪らない。そうなると乾杯する酒の種類も変わり、胃袋に種々雑多の酒が次々と流れ込む。
ここまで来ると、宴も盛り上がり、もはや『随意』は通じない。その光景は地獄か嵐である。
逃亡したいときには、迷わず逃亡する。
帰るそぶりを見せながら席を立つと、忽ち捕まってしまい、再び一気飲みの洗礼を受ける。
日本を一歩出れば、誰でも外人である。どの国でも外人は目立ちやすい。それをしっかり肝に銘じ、隠密に行動しなければならない。
上手な人はトイレに行く振りをして、笑いながら席を立ち、そのままドロン。
翌日に参加者と顔を合わせても、逃亡をなじる人がいないばかりか、逃亡を話題にする人もいない。
ちなみにこの酒宴からの逃亡を教えてくれたのは、台湾人の友人である。持つべきものは友達である。
街の中で酔客はあまり見かけない
日本で酔えば、一人でふらふらと街をさまよい、時には薄暗い路地裏で困り果てる人や、また時にはベンチの上で寝ている人を見かけるが、台湾では殆ど見かけない。
日本の通勤圏は広く、会社を中心に四方八方から電車やバスを乗り継いで社員が集まる。皆の便宜を図った末、飲むのは専ら会社の近く。酔った同僚を介抱していたら、自分も我が家へ辿り着けなくなるかもしれない。
その点、台湾では車やオ-トバイで楽々通える範囲内に住む人が多く、退勤後、はめを外しても、同僚の一人や二人は面倒見られる。それに加えて、台湾人は困っている人を放っておけない心優しい人が多いのだろうと思う。
日本人は、時間に関してかなり厳しい。台湾で同じ時間感覚で暮らすのは、精神衛生上あまりよろしくない。日本と台湾には一時間の時差があり、行動様式にも時差があると考えると丁度いい。 日本にいると時間厳守であり、遅刻すると約束を守れない信頼[…]