[1990年代の台湾] 対照的な台湾人と日本人

活路を求めて外国に出て行こうとする台湾人が多いのと比較すると、積極的に海外に出ようとする日本人は少数である。それぞれの国家背景や境遇が反映されているのだろう。

台湾人は外国に憧れがある分、台湾に対して自信に少し欠けるところが見受けられる。その反面、日本人は日本人の美徳である謙虚さを忘れがちで、自信過多気味である点が気になるところである。

繰り返される移民ブーム

香港が1997年に中国に返還されることが決まってから、不安に思った香港住民の間に移民ブーム(移民熱)が巻き起こった。それを知る人も多いことだろう。

国際社会での台湾の立場は、中国大陸との兼ね合いがあり、とても微妙である。台湾でも香港に似た移民熱の現象が起こっている。この原因には、前述の香港の中国返還や、台湾海峡危機からくる不安感であろう。

しかし、この台湾における移民熱は、今に始まったことではなく、昔から台湾に危機が及ぶ度に、現在まで続いているらしい。多くの人達ができることなら移民したいと願う。私の周りの身近な人でも計画中であったり、実際に移民したりした人達が少なからずいる。

移民熱は台湾人の自信のなさも原因か

一体何が台湾人を移民に駆り立てるのか。台湾が抱える不安要素もその理由の一つだろうが、移民するか否かは台湾人自らが決めている。

そう考えると、台湾人が台湾に対してあまり自信を持っていないことも理由の一つになるようである。

台湾や台湾人には、日本や日本人にはない良いところがたくさんあり、私が台湾を褒めると、ほとんどの台湾人が意外だというような反応や、疑問を呈してくることも多い。

対照的な日本人

一方、日本人で移民を考える人は少数である。日本は危機を経験していないというのも理由の一つだろうし、また日本に誇りと自信を持っている人が大半だからであろうか。

日本のテレビ番組を見て、それが分かるような気がする。

テレビの司会者や出演者が外国と比べる番組でもないのに、私や私達という代名詞を使えばいいところを、わざわざ日本人という名詞に置き換えて発言する。

テレビショッピングを見ていると、販売員がネックレスなどを手にしながら、この素敵なネックレスは日本人の肌の白さによく映えるというようなトークをする。

いずれも台湾ではあまり見られない事象である。

幼少の頃から日本人という言葉と良いイメージを重ねられて、それを繰り返し見聞きしながら育つと、日本人としての愛国心にも似た意識が知らずと心に根付くのではないだろうか。

しかし、台湾人は、その意識が薄いような気がする。

自信過剰になりやすい日本人

台湾では実に様々な日本人を見た。

台湾に着いた途端に人格が一変して大殿様になってしまう人や、横柄な口のきき方になってしまう人などがいる。だが、これらの事例のどれもが前述の日本人だという意識が過剰に働いてしまったのだろう。もしも、彼らが品格や節度を保ってくれていたとしたら、もっと日本人の評判が上がるだろう。

その一方で、台湾に居住する日本人は、日本人としてのストレスを感じることもある。

日本人だから、礼儀正しいとか、きっと勤勉に違いないだの周りから言われることが多いし、それを逸脱する行動をとると批判されやすいので、気を引き締めなければというプレッシャーを感じることがある。

但し、ほとんどの台湾人が日本人に対していいイメージを抱いてくれているので、その点はとても救われた気持ちになる。

移民する以外に留学という選択肢もある

本人が希望した例もあれば、親に勧められるままに海外留学する人もいる。私の知人にも子供を外国に送り出そうと計画する人がいる。中には小学生のわが子をイギリスやカナダに送り出した親もいる。

特に男の子にはより熱心である。台湾では二年間の兵役があるからである。聞けば、その二年間が無駄と言う。兵役を逃れるには中学校に上がる前に海外へ出さねばならない。中学生になると、海外旅行さえ制限がかかり、難しいと言う。

兵役逃れと説明したのは、子供を海外に送り出すための都合のよい口実かどうかは分からないが、結局は、留学した子供達の大半は外国の国籍を取得しているようである。そして、そのまま祖国へ戻らない例もあれば、その子が親を呼び寄せる例もある。こうなれば一家で移民ということになる。

現在では、台湾人も台湾に対して自信を持ち始めたようである。台湾人自らが、台湾や台湾人のよさがわかり始めたのであろう。
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